部署間の壁が溶けた話 ~「他のチームに口出しするな」と言われていた私が心理的安全性で連携を深めたまで~
部署間の壁に息苦しさを感じていた日々
私たちの部署は、良く言えば専門性が高い、悪く言えば「サイロ化」している状態でした。自分の部署の業務に集中し、他の部署との関わりは必要最低限。何か問題が起きても、「それは〇〇部の担当だから」と線を引くことが当たり前になっていました。
私自身も、他のチームが抱える課題や進捗について、正直なところよく知りませんでした。そして、自分のチームが抱える課題について、他のチームに意見を求めることなど考えもしませんでした。部署間の壁は目に見えないほど分厚く、まるで「他のチームに口出しするな」という暗黙の了解があるかのようでした。
その結果、情報共有は滞り、時には同じような課題に対して部署ごとに全く違うアプローチをしていたり、連携不足から手戻りが発生したりすることも少なくありませんでした。個々の部署は一生懸命に仕事をしているのに、組織全体としては非効率さを感じ、漠然とした息苦しさを覚えていました。
小さな問いかけから始まった変化
ある日、私は担当しているプロジェクトで行き詰まりを感じていました。私たちのチームだけでは解決が難しい問題で、実は隣の部署の知識や経験が不可欠であることに気づいたのです。しかし、「他のチームに口出しするな」という雰囲気の中で育ってきた私は、どう声をかけていいか分かりませんでした。無下に断られたらどうしよう、忙しいのに迷惑だと思われたらどうしよう、そんな不安が先に立ちました。
それでも、このままではプロジェクトが進まないという危機感から、意を決して隣の部署のAさんに話しかけてみることにしました。
「すみません、ちょっとお伺いしてもよろしいでしょうか」
Aさんは少し驚いたようでしたが、快く話を聞いてくれました。私は現在の状況と課題、そしてAさんの部署が持っているであろう専門知識が必要であることを正直に伝えました。話し終えた時、Aさんが発した言葉に私はハッとさせられました。
「ああ、なるほど。そういうことで悩んでいたんですね。実はうちの部署も、似たような課題に直面したことがあって。何かお手伝いできることがあるかもしれませんよ。」
Aさんの言葉は、私にとって予想外のものでした。もっとけん制されるか、あるいは「それはそちらで考えてください」と言われるのではないかと構えていたからです。Aさんは私の話を否定するでもなく、責めるでもなく、まず「理解しよう」という姿勢で耳を傾けてくれたのです。
その場で全ての問題が解決したわけではありませんが、この小さなやり取りをきっかけに、私はAさんと定期的に情報交換をするようになりました。Aさんも私の部署の状況に関心を持ってくれるようになり、お互いの業務についてオープンに話せる関係性が少しずつ築かれていったのです。
広がっていく「言っても大丈夫」の輪
Aさんとのやり取りを通して、「部署が違っても、お互いの課題に関心を持ち、助け合ってもいいんだ」という意識が私の中に芽生えました。そして、これは自分だけでなく、他のメンバーや他の部署にも言えることなのではないかと思うようになりました。
私は、自分のチームメンバーにも、他の部署との情報交換を積極的に行うことの重要性を話しました。また、私自身も他の部署の人と廊下で会ったら、以前より丁寧に挨拶をしたり、共通の話題を見つけて短い会話をしたりするようになりました。
最初はぎこちなかった関係も、小さなコミュニケーションを重ねるうちに少しずつ変化していきました。他の部署から質問されることも増え、私たちからも気軽に質問できるようになりました。以前はメールで形式的なやり取りしかしていなかった相手と、ランチを一緒に食べに行くような関係になったりもしました。
驚いたのは、部署間の壁が低くなるにつれて、プロジェクトの進行が目に見えてスムーズになったことです。早期に課題を共有できるようになったため、手戻りが減りました。他の部署の専門知識を借りることで、私たちのチームだけでは思いつかなかった新しいアイデアが生まれることもありました。何よりも、以前のような閉塞感や息苦しさが薄れ、組織全体に風通しの良さを感じられるようになったことが大きな変化でした。
体験から見えた心理的安全性の力
私の体験を通して、部署間の「心理的安全性」がどれほど重要であるかを実感しました。心理的安全性とは、チームや組織の中で、自分の意見や感情を安心して表現できる状態を指しますが、これは同じチーム内に限ったことではありません。部署間においても、「この人に話しかけても大丈夫だ」「無知だと思われても質問しても大丈夫だ」「自分の部署の課題を率直に話しても大丈夫だ」と思えるかどうかが、連携の質を大きく左右するのだと学びました。
私がAさんに話しかけた最初の「すみません、ちょっとお伺いしてもよろしいでしょうか」という一言、そしてAさんが私の話を頭ごなしに否定せず、耳を傾けてくれたこと。こうした小さな一歩、そして相手を受け入れる姿勢こそが、心理的安全性を育むのだと思います。
もしあなたが、私と同じように部署間の壁に息苦しさを感じているなら、まずはほんの小さな一歩から踏み出してみてはいかがでしょうか。それは、隣の部署の人に挨拶をする、共通の話題で短い雑談をしてみる、あるいは勇気を出して簡単な質問をしてみる、といった些細なことかもしれません。
「他のチームに口出しするな」という雰囲気は、心理的安全性の欠如から生まれるものです。そして、それは決して一人の責任ではありません。しかし、私たち一人ひとりの小さな行動や意識の変化が、少しずつその空気を変えていく力を持っているのだと私は信じています。部署間の壁が溶け、心理的安全性が高まることで、組織はより強く、より創造的になり、そして私たち自身も、もっと自由に、もっと気持ちよく働くことができるようになるはずです。
もし今、あなたが職場のどこかに壁を感じているとしたら、それはあなただけではありません。そして、その壁をなくしていくための小さな一歩は、きっとあなたのすぐそばにあるのだと思います。