反対意見も、言ってみたら「ありがとう」と言われた話 ~対立を恐れないチーム文化が育つまで~
言いたいことがあるのに、言えない空気
会議中、新しい企画や進め方について話が進んでいきます。誰もが「良いですね」「賛成です」と相槌を打つ中で、心の中にふと違和感が生まれます。
「でも、これって本当にうまくいくのかな…」 「もっと別のやり方の方がリスクが少ないかもしれない…」
そんな懸念や反対意見が頭をよぎっても、口に出すのをためらってしまう。過去に意見を言ったときに空気が凍りついた経験や、「水を差す人」と思われたくない気持ちが勝ってしまうのです。結局、何も言えずに会議が終わり、心の中には小さなモヤモヤだけが残ります。そして、そのまま物事が進んでいく中で、「やっぱりあの時言っておけばよかった」と後悔することも。
このような経験は、あなたにもあるでしょうか。意見の対立を避け、波風を立てないことが良しとされる環境では、誰もが本音を伏せてしまいがちです。しかし、それでは建設的な議論は生まれず、チームとしての可能性を狭めてしまうことになります。
「懸念点、ありますか?」勇気を出して言ってみた一言
私が以前いたチームも、まさにそんな雰囲気でした。和気あいあいとして見える一方で、重要なことほど誰も踏み込んだ意見を言わない。特に、提案されている内容への反対意見や、何かを否定するような発言はタブー視されているようでした。
新しいプロジェクトの計画会議でのことです。リーダーから提示された案は、一見理にかなっているように見えましたが、いくつかの点で懸念がありました。コスト面、スケジュール、そして技術的な実現可能性。どれも無視できないポイントです。しかし、誰も何も言いません。皆がうつむきがちに資料を見ているだけです。
このままではまずい、と思いました。過去の経験から躊躇しましたが、この懸念を伝えないと、後で大きな問題になる可能性が高いと感じたのです。深呼吸をして、手を挙げました。
「あの、少し懸念している点があるのですが、よろしいでしょうか」
緊張しながらそう切り出すと、一瞬場が静まりました。リーダーを含め、皆の視線が私に集まります。心臓がドキドキしました。しかし、リーダーは穏やかな表情で頷いてくれました。
「はい、どうぞ。どんな点ですか?」
私は準備してきた内容を、言葉を選びながら丁寧に伝えました。感情的にならず、事実と論理に基づいて、なぜその点が懸念なのか、代替案として考えられることは何かを説明しました。話し終えた後、再び沈黙が訪れます。やはり、言ってしまったことで空気が悪くなったのかもしれない。そう思った時、リーダーが口を開きました。
「なるほど。具体的な視点での懸念点、ありがとうございます。確かに、その点は検討が足りませんでしたね。他の皆さんはどうですか?」
驚きました。「ありがとう」と言われたのです。私の意見を否定するのではなく、まず受け止め、感謝の言葉を述べてくれた。そして、議論を私個人に押し付けるのではなく、チーム全体に広げようとしてくれたのです。
このリーダーの反応を見て、他のメンバーも少しずつ発言し始めました。「私もその点、気になっていました」「別の懸念ですが、〇〇はどうでしょうか」と、次々に意見や質問が出始めました。
反対意見が「チームへの貢献」に変わる瞬間
その日の会議は、予定時間を少しオーバーしましたが、非常に建設的なものになりました。私の懸念点に対する議論は深まり、より現実的な計画へと修正が進みました。また、他のメンバーから出た様々な視点によって、当初の案にはなかったアイデアも生まれ、プロジェクトの質が大きく向上しました。
この体験を通して、私は強く感じました。反対意見や懸念点は、チームの足を引っ張るものではない。むしろ、リスクを減らし、より良い結論にたどり着くための重要な貢献なのだと。そして、それを可能にするのは、意見を言う側の勇気だけでなく、それを受け止める側の姿勢、つまり「心理的安全性」なのだと。
リーダーが私に「ありがとう」と言ってくれたこと。それが、チームの空気を変える大きな一歩だったと思います。否定されるかもしれないという恐れを和らげ、「このチームでは、正直な意見は歓迎されるんだ」という安心感を与えてくれました。
それ以来、私たちのチームでは、会議で疑問点や懸念点が出やすくなりました。もちろん、感情的な対立がないわけではありませんが、「相手を攻撃するため」ではなく、「より良い結果を出すため」という共通認識が生まれたように感じます。自然と、お互いの意見に耳を傾け、「なぜそう思うのだろう?」と建設的に問いかける習慣ができてきました。
小さな一歩が、信頼を育む
もしあなたが今、職場で言いたいことが言えず、息苦しさを感じているとしたら、それは決してあなた一人の問題ではありません。多くの人が同じような悩みを抱えています。そして、チームの空気を変えるために、あなたができる小さな一歩があるかもしれません。
それは、もしかしたら「ありがとう」という感謝の言葉かもしれません。 それは、もしかしたら相手の意見に「なるほど」と耳を傾ける姿勢かもしれません。 それは、もしかしたら勇気を出して「少し気になることがあります」と切り出す一言かもしれません。
対立を恐れずに意見を言い合えるチームは、お互いを信頼し、共通の目標に向かって正直に向き合える、強くしなやかなチームです。その一歩を踏み出す勇気と、それを受け止める温かい心が、あなたの職場にも、そしてあなたの心にも、新しい風を吹き込んでくれるはずです。
希望を持って、小さな一歩を踏み出してみてください。あなたの言葉が、チームの未来を変えるかもしれません。