心理的安全性ストーリー

新しいやり方を提案できなかった私が、「まずやってみよう」と言えるチームになった話

Tags: 心理的安全性, 挑戦, チームビルディング, 職場改善, 小さな一歩

「前例がないから」「変えなくていいよ」その言葉に、私のアイデアはしぼんでいった

職場に新しいやり方を提案したいと思っても、「どうせ却下されるだろう」「面倒なだけだって思われるかな」とためらってしまう。そして、結局何も言えずに、心の中にモヤモヤだけが残る。あなたは、そんな経験はありませんか?

私もかつて、まさにそうでした。

私の部署は、良くも悪くも「これまで通り」を重視する文化がありました。新しいツールを導入したり、業務フローを少し変えたりする提案をしようものなら、「前例がないから」「わざわざ変えなくても、今のままで問題ない」「面倒が増えるだけだよ」といった言葉で、あっさり却下されてしまうことがほとんどでした。

何度か勇気を出して提案してみたのですが、そのたびに冷たい反応が返ってきて、だんだんと「どうせ言っても無駄だ」という気持ちが強くなっていきました。

会議で他の人が新しいアイデアを出しても、すぐに懸念点やリスクが挙げられ、結局「今回は見送ろう」となる場面を何度も目にしました。そんな環境にいると、私も含め、チーム全体の士気が下がっていくのを感じていました。新しいことに挑戦する意欲が失われ、「ただこなすだけ」の日々になっていたのです。

小さな「やってみよう」から生まれた、ささやかな変化の兆し

そんな状況を変えたい、でもどうしたらいいのか分からない。そんな閉塞感を感じていた頃、部署の同僚とランチに行った時の会話が、私にとって小さな転機となりました。

「〇〇さん(私)、この前の会議で話してた、あのツール良いよね。私も実は試したかったんだ」

その同僚も、私と同じように新しいことを試したいと思っているのに、職場の雰囲気を気にして言い出せなかった、と打ち明けてくれたのです。私だけが感じていた息苦しさではなかったことを知り、少し心が軽くなりました。

私たちは、大きな改革を提案するのではなく、まず「自分たちの業務範囲で、小さく試せること」から始めてみよう、と決めました。部署に公に提案するのではなく、「個人的な秘密のミッション」のように、まずは自分たちで試してみることにしたのです。

例えば、毎日手作業で集計していたデータを、無料のツールを使って自動化するテストを始めました。もちろん、すぐに上手くいくわけではありませんでした。ツールの使い方に戸惑ったり、エラーが出たりと、小さな失敗はたくさんありました。

でも、二人で「まあ、ダメ元でやってみようか」「失敗しても、これはこれで学びだね」と笑い合いながら取り組めたことが、とても大きかったのです。失敗しても非難される心配がない、という安心感がありました。これが、私たちにとっての最初の「心理的安全性」だったのかもしれません。

「なんか良さそうですね」チームに伝播した「まずやってみる」空気

数週間後、その自動化ツールのおかげで、私たちはこれまで2時間かかっていた集計作業を、わずか15分で終えられるようになりました。この小さな成功を、他の同僚にも「個人的に使ってみたら、すごく便利だったんですよ」と、大げさではなく、あくまで「使ってみた感想」として共有してみました。

すると、何人かの同僚が「え、すごいですね!どうやったんですか?」と興味を示してくれたのです。「もし良かったら、一緒にやってみますか?」と声をかけ、数人の「まずは試してみよう」チームが自然発生しました。

この小さなチームで、さらに他の業務改善アイデアも「まずは試してみる」ようになりました。失敗も続きましたが、成功するたびに「なんか、これ良いかもね」という声が聞かれるようになりました。

ある日、部署の会議で新しい報告書のフォーマットについて議論になった際、これまでなら「前のままでいいじゃないか」という意見で終わっていたのが、「この前〇〇さんたちが試してたツールで、こういうフォーマットだと楽になりそうでしたね。試しにこの形式で来月やってみませんか?」と、チームメンバーの一人が提案してくれたのです。

これには本当に驚きました。そして何より嬉しかったのは、その提案に対して、「いいね、一度やってみようか」「失敗しても、その時に考えればいいことだし」という、前向きな反応が返ってきたことでした。かつてはリスクばかりに目が向いていたチームに、「まずやってみよう」という空気が生まれ始めていたのです。

大きな声だけでなく、小さな一歩から心理的安全性は育つ

もちろん、職場の文化が劇的に変わったわけではありません。今でも新しい提案がすんなり通らないこともあります。しかし、「まずは小さく試してみる」ことへの抵抗感は、明らかに減りました。失敗を過度に恐れず、「学びのためにやってみる」という考え方が少しずつ浸透してきたように感じています。

私自身の変化も大きいです。「どうせ無駄だ」と諦めるのではなく、「小さくなら試せるかも」「このアイデアは誰かに話してみようかな」と、建設的に考えられるようになりました。そして、一緒に「まずやってみよう」と言える仲間ができたことが、何よりも心強いです。

心理的安全性とは、常に大きな声で意見を言ったり、大胆な改革を提案したりすることだけを指すのではないのだと、この経験を通して学びました。それは、個人的な小さな違和感を口にしてみたり、公式な場でなくても新しいことを小さく試してみたり、そしてその小さな一歩や失敗を、周囲が温かく受け止める。そんな日々の積み重ねからも生まれるものだと思います。

もしあなたが今、職場の閉塞感に悩んでいたり、新しいことを始めたいのにためらってしまったりしているなら、もしかしたら「まずは小さく試してみる」ことから始めてみてはいかがでしょうか。一人で抱え込まず、同じように感じている仲間を見つけて、小さな「やってみよう」を共有するのも良いかもしれません。

あなたの小さな一歩が、きっとチームの空気感を変えるきっかけになるはずです。応援しています。