「当たり前」を疑ったら、職場の心理的安全性が高まった話
職場に潜む「当たり前」が生む息苦しさ
今の職場で、なんとなく「これでいいのかな」と感じる瞬間はありませんか。会議で意見を言うのをためらってしまったり、質問したいのに周りの目が気になってしまったり。新しいアイデアを提案しても、「いや、それはうちのやり方じゃないから」とすぐに否定されてしまうような空気を感じたり。
私自身、以前の職場でそんな漠然とした息苦しさを感じていました。特に大きな問題があるわけではない。ただ、周りの人も同じように大人しく、言われたことだけをこなしているように見える。「まあ、これが普通なのかな」「どこもこんなものだろう」と、自分に言い聞かせていました。
私たちの職場には、いくつか暗黙の「当たり前」がありました。例えば、
- 会議では役職の高い人から順に発言し、下の者はひたすら聞くのが基本
- 質問は簡潔かつ的確に。事前に調べられることは自分で調べてから、という雰囲気
- 休憩時間も業務に関係ない話はほとんどしない
- 新しいツールの導入には、必ず「本当に必要か?」と慎重すぎるほどの議論が交わされる
これらは悪意を持って作られたルールではありません。効率を重視したり、真面目に取り組もうとしたりする中で、自然と根付いた習慣だったのだと思います。しかし、これらの「当たり前」が、徐々にチームの活気を奪い、お互いの間に見えない壁を作っているように感じていました。
「当たり前」を疑ってみる小さな一歩
そんな時、あるセミナーで「心理的安全性」という言葉を知りました。率直に意見を言えること、質問をためらわないこと、失敗を恐れずに挑戦できること...。それは、私が漠然と求めていた、しかし「普通じゃない」と諦めていた職場環境のことでした。
「うちの職場の当たり前って、もしかして心理的安全性を下げているんじゃないか?」
そう気づいた時、目の前が少し開けた気がしました。でも、長年培われた「当たり前」を、一介の私が変えられるわけがない。そう思って、また諦めかけました。
しかし、セミナーで聞いた「大きな変化は小さな一歩から始まる」という言葉が心に残っていました。「完璧を目指す必要はない。まずは自分が少しだけ、その当たり前と違う行動をしてみよう」。そう決心しました。
私がまずやってみたのは、本当に小さなことでした。
- 会議中、すぐに答えが思いつかない時、「少し考えさせていただけますか?」と正直に言ってみる。以前なら、分かったふりをして後でこっそり調べるか、適当な返事をしてしまっていたかもしれません。
- 休憩時間、周りが業務の話をしている中、意を決して「そういえば、最近〇〇(趣味の話)が面白くて」と、ほんの少しだけ仕事と関係ない話題を振ってみる。
- 以前なら遠慮していた「これ、どうやるんですか?」といった簡単な質問を、チャットでなく直接近くの同僚に聞いてみる。
最初の一歩はとても勇気がいりました。「変な奴だと思われるかな」「空気を読めないって思われたらどうしよう」そんな不安が頭をよぎりました。しかし、意外なことに、周りの反応は私が想像していたような否定的なものではありませんでした。
「ああ、もちろん考えていいよ」 「へえ、〇〇に興味あるんだ。どんなのが面白いの?」 「あ、それならこうやれば早いよ」
拍子抜けするほど、ごく普通でした。
小さな変化がチームに広がる
私の小さな行動がすぐに劇的な変化を起こしたわけではありません。しかし、少しずつ、確実に何かが変わり始めました。
私が「少し考えさせて」と言ったことで、他のメンバーもすぐに完璧な答えを出そうと焦らなくなったように見えました。誰かが雑談に応じるようになると、休憩時間に少しだけ業務と関係ない会話が生まれるようになりました。私が簡単な質問をすることで、他の人も「分からないことを聞いても大丈夫なんだ」と感じたのかもしれません。
特に嬉しかったのは、以前はほとんど発言しなかった若手メンバーが、会議で小さな質問や気づきを口にするようになったことです。また、新しいツールについて「こういうの、使ってみるのも面白いかもしれませんね」と、以前ならすぐ却下されそうな提案をするメンバーも出てきました。
大きなシステムやルールを変えたわけではありません。ただ、誰か一人が「当たり前」の行動パターンから少しだけ外れたこと。そして、その小さな行動を周りが受け入れたこと。それだけで、チームの中に「少し違うことをしても大丈夫」「完璧じゃなくても許される」という空気が生まれ始めたのだと思います。
心理的安全性は、特別な誰かが作り出すものではなく、私たち一人ひとりの小さな言動によって育まれるものなのだと実感しました。
あなたの「当たり前」を少しだけ疑ってみませんか
もしあなたが今、職場で漠然とした息苦しさを感じているなら、それはもしかしたら、あなたが無意識のうちに受け入れている「当たり前」の中に、心理的安全性を阻害する要素が隠れているからかもしれません。
長年の習慣や、周りの目が気になって、その「当たり前」を変えるのは難しいと感じるかもしれません。でも、全てを変えようとする必要はありません。まずは、あなたが一番小さな一歩を踏み出せそうな「当たり前」を一つだけ選び、いつもと少しだけ違う行動を試してみてはいかがでしょうか。
すぐに大きな変化はないかもしれません。周りの反応が薄いこともあるでしょう。それでも、あなたが踏み出したその小さな一歩は、間違いなくチームや職場の空気を変える可能性を秘めています。
「当たり前」だと思っていた職場環境が、あなたの小さな勇気によって、少しずつ安心できる場所へと変わっていく。そんな未来が、すぐそこにあるかもしれません。
この記事が、あなたが職場の「当たり前」を見つめ直し、心理的安全性を育むための一歩を踏み出すきっかけになれば幸いです。