心理的安全性ストーリー

モヤモヤを言葉にできなかった私が、チームに「心の声」を伝えられるようになった話

Tags: 心理的安全性, コミュニケーション, チームワーク, 自己表現, 職場環境, 対話, 共感

職場での「うまく言えない」モヤモヤ

会議中、チームでの話し合い。誰かが何かを発言するたびに、心の中に小さな波が立つことがあります。それは明確な反対意見というわけでもなく、賛成でもない。ただ、何かが少し引っかかる、腑に落ちない、あるいは漠然とした違和感。

「あれ? 今の話、ちょっと違うような…」 「でも、具体的にどこが? なんて言えばいいんだろう…」

そう考えているうちに、話はどんどん進んでいきます。結局、そのモヤモヤを言葉にできないまま、会議は終わります。後になって「やっぱりあの時、言えばよかったかな」と後悔したり、一人でその違和感を抱え込んでしまったり。

私の職場は、決して雰囲気が悪いわけではありませんでした。皆、優しくて、互いに攻撃的な言葉を使う人もいません。でも、どこか遠慮があり、本音で深い議論をする空気は薄かったように思います。私自身も、自分の内にある「うまく形にならない声」にどう向き合い、どう伝えればいいのかが分からず、ずっと息苦しさを感じていました。

小さな違和感に光を当てる試み

そんなチームに、小さな変化が訪れました。新しいリーダーが着任し、彼が繰り返し伝えるようになったのは、「どんな小さなことでも、心に引っかかることがあったら、言葉にしてみよう」というメッセージでした。最初は半信半疑でした。「そんなこと言われても、うまく言葉にならないのに…」。

ある日のチームミーティング。新しいプロジェクトの進め方について議論していました。皆が前向きな意見を出し合う中、私はまた心の中で「うーん…」となっていました。論理的に説明できる理由ではないけれど、何かスムーズに進まない気がする。

いつもの私なら、ここで黙ってしまっていました。でも、リーダーの言葉が頭をよぎりました。「うまく言えなくてもいい。感じたことをそのまま伝えてみよう」。

意を決して、私は手を挙げました。

「すみません、うまく言葉にできないんですけど…」 緊張で声が少し震えました。 「このやり方で進めるとして、何か、こう、引っかかるものがあるんです。具体的な理由じゃないんですけど、このままだと何か壁にぶつかる気がして…」

自分でも何を言っているのかよく分かりませんでしたが、精一杯、心の中にあるモヤモヤを言葉にしようとしました。

「そう感じるんだね」受け止められた心の声

すると、予想外の反応が返ってきました。チームメンバーの誰も、私の曖昧な発言を笑ったり、責めたりしませんでした。リーダーは穏やかにうなずきながら、「そう感じるんだね。具体的にどんな点が、特に引っかかりますか?」と、私の言葉の先に耳を傾けてくれました。

他のメンバーも、「私も、完璧じゃないけど、あの部分に少し不安を感じてたんだ」「もしかしたら、〇〇のことかな?」と、私の言葉を起点に、それぞれの持つ漠然とした不安や懸念を少しずつ口にし始めたのです。

その場で明確な解決策が出たわけではありません。でも、自分の曖昧な「心の声」が、否定されることなく、チームの中で受け止められ、他の人たちの声を引き出すきっかけになったことに、私は大きな驚きと安堵を感じました。

モヤモヤを言葉にする勇気と、受け止める文化

この小さな出来事を境に、私は自分の内にあるモヤモヤや違和感を、恐れずに言葉にしてみよう、と思うようになりました。「うまく説明できませんが」「個人的な感覚なのですが」といった前置きを使いながらも、自分の感じていることを少しずつチームに伝える練習をしました。

最初はやはり難しかったですが、チームが私の拙い言葉にも根気強く耳を傾けてくれる姿勢が、私にさらなる勇気をくれました。そして、私が心の中の声を伝えることで、他のメンバーも同じように話しやすくなる、という好循環が生まれ始めました。

チームの議論は、表面的で当たり障りのないものから、一人ひとりの正直な感覚や懸念が交換される、深みのあるものへと変わっていきました。それは、いわゆる「正解」だけを求める場ではなく、多様な視点や感情が存在することを認め合い、そこからより良い答えを共に探していく場になったのです。

心理的安全性が「心の声」を育む

心理的安全性とは、単に失敗しても大丈夫、意見を自由に言っても大丈夫、ということだけではありません。それは、自分の内にある、形にならない、あるいは言葉にするのが難しい「心の声」をも、安心してチームに開示できる環境なのだと、私はこの経験を通して学びました。

自分のモヤモヤや違和感に蓋をせず、それを言葉にしようと試みること。そして、チームがその不確かな声にも耳を傾け、「そう感じるんだね」と受け止める姿勢を持つこと。この双方向の働きかけが、チームに心理的安全性を育み、個々人がより正直に、そして建設的に関われる関係性を築いていくのだと思います。

もし今、あなたが職場で漠然とした息苦しさを感じていたり、自分の内にある声にどう向き合えばいいか悩んでいるとしたら、それはあなただけではありません。そして、その「心の声」は、決して無視して良いものではないことを知ってほしいです。

もしかしたら、まずは「うまく言えないんですけど…」と、小さな一歩から始めてみることができるかもしれません。そして、あなたのその小さな一歩が、あなた自身と、そしてチームの空気を変える大きな一歩になる可能性を秘めているのです。

心理的安全性は、誰か一人が作るものではなく、一人ひとりの「心の声」を大切にすることから生まれていくのかもしれません。