「生意気だと思われたら」意見をためらっていた私が、立場に関係なく発言できるようになった話
意見を言うのが怖い、立場が上の人にどう伝えればいい?
職場での会議や打ち合わせで、自分の意見やアイデア、あるいは懸念点があっても、発言するのをためらってしまうことはありませんか。特に、自分よりも経験が豊富な上司や、もしかしたら年上の部下に対しては、「生意気だと思われるかな」「まだ経験が浅いのに、偉そうなことを言っていると思われたらどうしよう」そんな風に考えてしまい、結局黙ってしまう、という経験は、多くの人が共感できることかもしれません。
私も以前は、まさにそうでした。特に、社歴が長く、豊富な知識を持つ先輩や上司との会話では、自分の意見を押し殺してしまうことが常でした。何か新しいアイデアを思いついても、「どうせ却下されるだろう」「私の考えなんて、あの人たちの経験に比べたら取るに足らない」と決めつけ、口を閉ざしていました。
経験の壁に阻まれていた私の体験談
私が特に意見を言うのをためらっていたのは、部署のリーダーである田中さんと、プロジェクトで一緒になったベテランの山本さんでした。田中さんは常に冷静沈着で、的確な判断を下す尊敬できる存在でしたが、同時に近寄りがたい雰囲気もありました。山本さんは私よりも年齢が上で、過去の成功体験を多く持つ方でした。
あるプロジェクトで、私は新しいツールを導入することを提案したいと考えていました。既存のやり方では非効率な部分が多く、そのツールを使えば劇的に改善されると確信していたからです。しかし、田中さんや山本さんはこれまでのやり方に慣れており、新しいことへの抵抗があるかもしれない。それに、私の経験年数から考えると、あまりにも大胆な提案に聞こえるのではないか、そんな不安が頭をよぎり、資料を作る手も止まってしまいました。
何度か会議でそれとなく話題に出そうとしましたが、他の人が「いつものやり方で進めましょう」と言ったり、田中さんが「この部分は過去の事例に倣って」と指示を出したりするのを聞くたびに、「やっぱり私の考えは場違いだ」と引っ込めてしまいました。心の中では、「このままでは非効率なのに」「もっと良い方法があるのに」というモヤモヤがどんどん膨らんでいきました。
小さな一歩が、閉ざしていた扉を開いた
このモヤモヤと、事態が改善しないことへの焦りが募る中、私は意を決しました。まずは、一番話しやすい同僚に、新しいツールのアイデアとそのメリットを話してみました。同僚は真剣に聞いてくれ、「それはいいアイデアだね!田中さんや山本さんに話してみたらどうかな?」と背中を押してくれました。
この一言で、少しだけ勇気が湧きました。次に考えたのは、「どう伝えるか」です。いきなり会議で大々的に発表するのではなく、まずは田中さんに個別に相談してみようと思いました。アポイントを取り、「〇〇の件で、少しご相談させていただけますでしょうか」と切り出しました。
話を聞いてもらった時、心臓はドキドキしていました。しかし、田中さんは私の話を遮ることなく、最後までじっと聞いてくれました。話し終えると、すぐに結論を出すのではなく、「なるほど、そういう視点もあるんですね。考えてみましょう。」と、一旦受け止めてくれたのです。この「受け止めてくれた」という感覚が、私にとってどれほど大きな安心感だったか言葉では表せません。
山本さんには、プロジェクトの進捗確認の際に、「山本さんのこれまでのご経験から見て、今のやり方についてどう思われますか?実は、少し効率化できる方法があるのではないかと考えておりまして…」と、相談する形で話を持ちかけました。山本さんは、「お、何かアイデアがあるのかい?聞かせてもらえるかな」と興味を示してくれました。そして、私の提案を聞いた上で、「なるほど、そういう考え方もあるか。ただ、この点についてはこういった懸念もあるね。」と、経験に基づいた意見をくれました。私のアイデアが完璧ではないことを指摘されましたが、それは否定ではなく、一緒に解決策を考えようという前向きな姿勢でした。
意見を言えるようになったことで起きた変化
この二つの小さな経験を通して、私の心の中で何かが変わりました。完全にスムーズに行ったわけではありません。私のアイデアがそのまま採用されたわけではなく、他のメンバーの意見も踏まえながら、より良い方法を一緒に探っていくプロセスになりました。しかし、そこで重要だったのは、私の意見が「聞いてもらえた」「考えを共有できた」という事実です。
それから、私は以前ほど意見を言うことをためらわなくなりました。たとえすぐに賛成されなくても、一度聞いてもらえる、議論のテーブルに乗せてもらえる、という安心感が生まれたからです。発言することで、周りの人が私の考えを理解してくれるようになり、また、私も他の人の考えをより深く聞けるようになりました。チーム内のコミュニケーションが活発になり、新しいアイデアが生まれやすくなっただけでなく、お互いの立場を理解し、尊重する雰囲気も少しずつ育まれていったように感じます。
「生意気だと思われるかも」という不安は完全になくなったわけではありませんが、「言わないで後悔するよりも、伝えてみよう」という気持ちが強くなりました。意見を伝えることは、自分を守るためではなく、チームやプロジェクトをより良くするための一歩なのだと思えるようになったのです。
自分にもできるかもしれない、明日からの一歩
私の経験から言えるのは、心理的安全性は、立場が上の人や経験豊富な人との間でも築いていけるということです。そして、それは最初から完璧な状態である必要はなく、私たち一人ひとりの小さな行動から生まれてくるものだということです。
もしあなたが今、「意見を言いたいけど、どう伝えればいいか分からない」「立場が違う人に話すのは怖い」と感じているなら、まずはほんの小さな一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。
- まずは話しやすい人に相談してみる: 自分のアイデアや懸念を、信頼できる同僚や後輩に話してみることから始めましょう。
- 「相談」や「質問」の形で切り出す: いきなり提案するのではなく、「〜についてどう思われますか?」「〜について少し教えていただけますか?」のように、相手の経験や知識を借りる形で意見を伝える方法もあります。
- 相手の立場や経験への敬意を示す: 意見を伝える際に、「〇〇さんのご経験から伺いたいのですが」「いつも参考にさせていただいておりますが、〜について一点よろしいでしょうか」といった言葉を添えることで、相手は話を聞きやすくなります。
- 完璧を目指さない: 自分の意見が採用されなくても、否定的な反応が返ってきても、それを過度に恐れないでください。意見を伝えること自体に意味があり、それが次の建設的な対話につながることもあります。
心理的安全性の高い職場は、誰か一人が作るものではありません。一人ひとりがほんの少しの勇気を持って、自分の声を発し、そして相手の声に耳を傾けることから生まれます。あなたの小さな一歩が、職場の空気を変え、自分自身の働きがいにも繋がっていく可能性を信じてみてください。