心理的安全性ストーリー

何を話せばいいか分からず黙っていた私が、上司との間に安心感が生まれた話

Tags: 心理的安全性, 上司との関係, コミュニケーション, 職場改善, 人間関係

上司に「何を話せばいいか分からない」という沈黙

職場で上司と話すとき、つい口ごもってしまうことはありませんでしょうか。

「報告しないといけないことはあるけれど、どう切り出せばいいんだろう」 「こんな質問をしたら、的外れだって思われないかな」 「以前、別の人が何か言った時に、あまり良い反応じゃなかったから、自分も黙っておこう」

このような考えが頭をよぎり、結局必要な情報共有が遅れたり、疑問点を解消できないまま作業を進めてしまったり。あるいは、せっかくのアイデアも、上司に話す価値があるか分からず、自分の中に閉じ込めてしまう。

かつての私は、まさにそんな状況でした。上司は決して厳しい方ではありませんでしたが、どこか壁を感じてしまい、何を話せばいいか分からず、会議中や1on1の時間に沈黙してしまうことが頻繁にありました。報連相は形式的になり、一方的に情報を伝えるだけで終わってしまい、本当に状況が伝わっているのか不安になることもありました。

このような状態が続くと、業務の効率が下がるだけでなく、自分自身のモチベーションも下がってしまいます。職場に居心地の悪さを感じ、「自分はここで力を発揮できていないのではないか」と漠然とした息苦しさを感じる日々でした。

小さな「事実」を伝えることから始まった変化

そんな私が、上司との関係に少しずつ変化を感じ始めたのは、心理的安全性について学び始めた頃でした。難しい理論は分からなくても、「ここでは自分の思ったことを正直に話しても大丈夫だ」「失敗しても責められない」と感じられる環境が、いかに大切かを知りました。

ただ、すぐに上司に対して自分の本音や感情を話せるようになったわけではありません。長年の習慣で染み付いた「何を言っても無駄」「どう思われるか怖い」という気持ちは、そう簡単に消えませんでした。

そこで私がまず意識したのは、「事実をそのまま伝える」ということでした。例えば、

といったように、自分の感情や解釈を挟まず、客観的な状況だけを簡潔に伝えるようにしました。以前は、事実を伝えるにも「この報告、どう思われるだろう」と余計な心配をしてしまい、曖昧な言い方になったり、報告自体を後回しにしたりしていたのです。

最初はぎこちなかったのですが、事実だけを淡々と伝えることを続けてみました。すると、上司から返ってくる言葉が少しずつ変わってきたように感じました。以前は一方的な指示や確認が多かったのが、「なるほど、そこまで進んでいるんですね」「その点は、〇〇のように考えてみると良いかもしれません」「何か困っていることはありますか?」といった、私の状況を理解しようとする、あるいは私に寄り添うような反応が増えてきたのです。

「分からない」と言えた勇気と、返ってきた安心感

この小さな変化に後押しされ、私は次に「分からないこと」を正直に伝えてみることに挑戦しました。特に、少し複雑な指示を受けた際など、「すみません、この部分がよく理解できませんでした。もう一度説明していただけますでしょうか?」と、勇気を出して尋ねてみたのです。

「こんな簡単なことも分からないのか」と思われたらどうしよう、という不安はありました。しかし、実際に伝えてみると、上司は嫌な顔一つせず、私が理解できていない点を丁寧に、別の言葉で説明してくれました。そして、「どこが分かりにくかったか教えてくれてありがとう。説明が足りなかったですね」とさえ言ってくれたのです。

この一言が、私にとって大きな転機となりました。「分からない」と言うことは、恥ずかしいことでも無能なことでもなく、むしろチームの誤解を防ぎ、より良い成果に繋げるための重要なステップなのだと、心から理解できた瞬間でした。

安心感が育んだ「対話」と貢献意欲

「分からない」と言えるようになると、今度は「こうしてみてはどうでしょうか?」と、自分の考えやアイデアを伝えるハードルも下がりました。完璧な提案でなくても、まずは素直に自分の考えを伝えてみようと思えるようになったのです。

私の拙い提案に対しても、上司は頭ごなしに否定することなく、「面白い視点ですね」「その考えに至った背景は?」と、私の話を最後まで聞いてくれるようになりました。そして、私の提案内容と上司の視点を組み合わせることで、一人では思いつかなかったような、より質の高いアイデアに発展することも増えました。

上司との間に安心感が生まれてからは、以前のような沈黙や一方的な報連相は減り、自然な「対話」が増えました。業務報告だけでなく、ちょっとした雑談をしたり、仕事の進め方について一緒に考えたりする時間が増え、上司が私のことを信頼してくれていると感じられる場面も増えました。

小さな一歩が変える職場の空気

この経験を通して、私は心理的安全性が単なる理想論ではなく、日々のコミュニケーションの積み重ねから生まれる現実的なものだと実感しました。特に、上司との関係性においては、部下側からの小さな正直さや、「分からない」と伝える勇気が、関係を築く大きな一歩になることがあるのです。

もちろん、相手の反応は様々ですし、すぐに劇的な変化が起こるわけではないかもしれません。しかし、たとえ小さなことでも、事実を正直に伝えること、分からないことを質問すること、感謝や助けを求めること。そうした一つ一つの行動が、上司との間に信頼の糸を紡ぎ、安心感という土壌を育んでいくのではないでしょうか。

もしあなたが今、職場で上司とのコミュニケーションに壁を感じているとしたら、もしかしたら私と同じように、「何を話せばいいか分からない」という沈黙を経験しているのかもしれません。

まずは、完璧を目指さず、小さな「事実」を伝えることから始めてみませんか。そして、少し勇気を出して「分からない」と口にしてみませんか。その小さな一歩が、あなたと上司、そして職場の空気を変えるきっかけになることを願っています。

心理的安全性が育まれた環境では、上司との関係は、指示を仰ぐだけの関係から、共に課題を解決し、目標に向かって協力するパートナーシップへと変わっていきます。それは、業務の効率を高めるだけでなく、あなた自身が安心して、そして意欲的に働くためのかけがえのない土台となるはずです。