「言っても大丈夫」率直なフィードバックが飛び交うようになった話
遠慮と形式的なやり取りばかりだった日々
以前の私たちのチームは、何か提案や意見を言いたいとき、どこか遠慮がありました。特に、改善点や耳の痛いことを伝えるとなると、口をつぐんでしまうことが多かったのです。
会議では当たり障りのない意見ばかり。個別のフィードバック面談も、「特に問題ありません」「引き続き頑張ります」といった形式的なやり取りで終わりがちでした。誰もが波風を立てたくない、相手を傷つけたくない、あるいは自分が批判されるのが怖い、そんな空気が漂っていたように感じます。
結果として、些細な懸念事項が見過ごされたり、もっと効率的にできるはずの作業方法が共有されなかったりしました。チームとして大きな問題が起きるわけではありませんでしたが、どこか成長が鈍い、停滞感があるような感覚がありました。新しいアイデアも生まれにくく、ただ与えられたタスクをこなす日々だったのです。
小さな「伝え方」から始まった変化
そんな状況を変えるきっかけは、チームの一人が始めた小さな試みでした。彼は、相手の仕事の良い点を具体的に伝えるように心がけ始めました。「〇〇さんの書いた資料、ここのデータ分析がすごく分かりやすくて助かります」といった、率直なポジティブフィードバックです。最初は少し気恥ずかしさもありましたが、言われた側は明らかに嬉しそうでした。
それに続いて、あるプロジェクトで小さなミスが起きたときのことです。以前なら、そのミスをどう指摘すべきか、誰が言うべきか、チーム内に気まずい空気が流れたかもしれません。しかし、その時は、例のチームメンバーが「この部分、もしかしたらこういう方法で確認すると、今後同じような間違いを防げるかもしれませんね」と、ミスそのものを責めるのではなく、今後のための改善提案として建設的に伝えたのです。
言われた側のメンバーも、すぐに反論するのではなく、「なるほど、そういう視点がありますね。試してみます」と素直に受け止めていました。そのやり取りを見て、私はハッとしました。フィードバックは、相手を評価したり、責めたりするものではなく、「より良くするための、共に考える材料」 なのだと。
「言っても大丈夫」が育んだ信頼
その出来事から、チーム内で少しずつ変化が生まれ始めました。
ポジティブなフィードバックが日常的に交わされるようになり、お互いの良い点や感謝を伝え合うことで、心理的な距離が縮まりました。信頼関係が深まるにつれて、建設的な改善提案や、懸念事項を伝えることへのハードルも下がっていきました。
もちろん、最初から全てがスムーズだったわけではありません。言い方に迷ったり、受け止め方に悩んだりすることもありました。しかし、「相手の成長を願っている」「チームを良くしたい」という根底にある気持ちが伝わるように、言葉を選ぶ努力を続けました。また、フィードバックを受けた側も、人格を否定されたわけではなく、あくまで業務に対する提案であると理解しようと努めました。すぐに完璧な回答をしようとせず、「一度持ち帰って考えてみます」「もう少し詳しく教えてもらえませんか」と返す柔軟さも身につきました。
「この人に言っても大丈夫だ」「この人が言うことなら聞いてみよう」という、相互の信頼と安心感が少しずつ育っていったのです。
フィードバックが、チームを次のステージへ導く
率直なフィードバックが飛び交うようになった結果、チームの雰囲気は大きく変わりました。
以前のような停滞感はなくなり、活発な議論が生まれるようになりました。新しいアイデアが提案されると、「ここはどうかな」「でも、こういうやり方もあるかも」と、建設的な意見交換を通して、アイデアが磨かれていきます。懸念事項も早期に共有されるため、問題が大きくなる前に対応できるようになりました。
何より、お互いの成長をサポートし合える、温かくも刺激的な関係性が築けたことが大きな収穫です。フィードバックは、もはや単なる評価のツールではなく、チームの成長を加速させるための、欠かせないエネルギー源になったのです。
この変化を通して、私は心理的安全性の力を実感しました。それは、特別なスキルや知識がなくても、一人ひとりが「相手の成長を願い、敬意を持って伝える」「素直に耳を傾け、共に考える」という小さな行動を積み重ねることで、築き上げられるものなのだと学びました。
あなたのチームで始める「大丈夫」な一歩
もし今、あなたの職場で本音が言いにくい、建設的な意見交換が少ないと感じているなら、私たちのように、まずは小さな一歩から始めてみてはいかがでしょうか。
- チームメンバーの良い点を具体的に伝えてみる。
- 感謝の気持ちを言葉にする。
- 何かを提案する際に、「こうしたらもっと良くなるかも?」という問いかけの形で投げかけてみる。
- フィードバックを受けた際に、すぐに反論せず、まず「聞くこと」に集中してみる。
「言っても大丈夫」という安心感は、すぐに手に入るものではないかもしれません。しかし、一人ひとりの勇気ある小さな行動が、少しずつ職場やチームの空気感を変えていくと信じています。私たちのように、あなたのチームでも、率直で建設的なフィードバックが、新しい成長の扉を開いてくれることを願っています。