心理的安全性ストーリー

「自分だけ置いてけぼり?」不安を抱えていた私が、チームで「わからない」を共有できた話

Tags: 心理的安全性, チーム, コミュニケーション, 不安, 体験談, 質問, 孤立

職場で「自分だけ何もわかっていないのでは」と感じたことはありませんか?

新しいプロジェクトに参加した時、専門知識が必要な部署に異動した時、あるいは周りのメンバーが皆ベテランに見える時。会議で飛び交う言葉が理解できなかったり、前提知識がないために議論についていけなかったりする経験は、多くのビジネスパーソンが一度は感じることかもしれません。

周りは皆、当たり前のように理解しているように見える。「こんな簡単なことも知らないのか」と思われたらどうしよう。質問して、チームのスピードを遅くしてしまったら迷惑ではないか。そんな考えが頭をよぎり、つい口を閉ざしてしまう。

私は、まさにそんな不安を常に抱えている人間でした。特に、経験豊富なメンバーばかりの新しいチームに加わった時は、その感覚がピークに達しました。「自分だけ何もわかっていない」「完全に置いてけぼりだ」と感じ、内心は冷や汗をかきながらも、平静を装うのに必死でした。

質問できない日々が連れてきたもの

私の担当業務は、チーム全体の進捗に関わる重要な部分でした。しかし、前提となる技術的な知識が不足していたため、指示された内容や、他のメンバーとの連携がスムーズに進まないことが増えてきました。

「分からない」を表明することが怖かった私は、一人で抱え込み、ネットで検索したり、書籍を読んだりして理解しようとしました。しかし、断片的な情報だけでは全体像がつかめず、さらに混乱を深めることもありました。

当然、業務の質は上がりませんし、時間もかかります。自分自身の成長も止まってしまうのを感じていました。何より辛かったのは、チームに貢献できている実感が持てず、孤立感を深めていったことです。会議で誰も自分の意見を求めていないように感じたり、休憩時間の雑談にもうまく入れなかったり。

「きっと私は、このチームに必要ない人間だ」

そんな思いが、日増しに強くなっていきました。心理的な負担は大きく、朝、会社に行くのが憂鬱になっていきました。

ある日、勇気を出して放った「あの言葉」

そんな状況が続いていたある日のこと。どうしても一人では解決できない問題に直面しました。納期は迫っており、もうどうしようもありませんでした。

心臓がバクバクするのを感じながら、私は意を決して、チームの中で最も話しやすいと感じていた先輩に声をかけました。

「すみません、少しお時間いただけますでしょうか。この件について、どうしても分からない点があって…多分、すごく基本的なことだと思うのですが、教えていただけますか?」

声が震えていたのを覚えています。先輩は、忙しいにも関わらず、すぐに手を止めてくれ、私の説明をじっと聞いてくれました。内心、「こんなことも知らないのか」と呆れられるのではないかと怯えていました。

しかし、先輩の口から出たのは、予想とは全く違う言葉でした。

「ああ、これね。確かに最初は分かりにくいよね。僕も最初そうだったよ。どの部分で詰まっている?」

「僕も最初そうだった」──。その一言が、私の張り詰めていた心をスッと軽くしてくれました。完璧に見えていた先輩も、かつては同じように悩んだ経験がある。そう知れただけで、自分だけが特別に劣っているわけではないのかもしれない、と思えたのです。

先輩は、私の疑問に丁寧に答えてくれ、関連する資料の場所も教えてくれました。そして最後に、「いつでも聞いてね。遠慮しないで」と付け加えてくれました。

「分からない」を共有できたことで起きた変化

この小さな一歩が、私のチームでの日々を大きく変えるきっかけとなりました。先輩の温かい対応に励まされ、私は少しずつ「分からない」を口にするようになりました。

最初は勇気が必要でしたが、一度質問してみると、意外にも他のメンバーも丁寧に教えてくれることが分かりました。時には、「あ、それ、僕もちょっと気になってたんだよね」と、他のメンバーから声がかかることもありました。自分だけが疑問を感じていたわけではなかったのです。

私が「分からない」を共有することで、チーム内の情報共有も少しずつ活発になったように感じます。誰かが質問すれば、他のメンバーもその情報を得られますし、教える側も自分の理解を深める機会になります。

以前は会議中も黙っていることが多かったのですが、分からない点はすぐに質問したり、関連情報について尋ねたりできるようになりました。それが、議論の活性化にも繋がっていったように思います。

何より嬉しかったのは、チームの中に自分の「居場所」を見つけられたことです。分からないことを隠している間は、チームとの間に見えない壁があるように感じていましたが、「分からない」を共有し、助け合いが生まれることで、本当の意味でチームの一員になれたと感じています。

不安から解放され、チームの一員になるために

私の体験を通して感じたのは、心理的安全性とは、決して「完璧でなければならない」というプレッシャーから解放され、「分からないことは分からない」と安心して言える環境なのだということです。

それは、個人の内面的な不安を和らげるだけでなく、チーム全体の知識や経験を結集し、より良い成果を生み出す力になります。誰かが「分からない」と言うことで、他のメンバーの学びにも繋がりますし、チーム全体の底上げにもなります。

もし今、「自分だけ置いてけぼりだ」「周りに比べて自分は劣っている」と感じて孤立している方がいたら、思い出してほしいのです。あなたは一人ではありません。そして、「分からない」を共有することは、恥ずかしいことではなく、チームを強くするための一歩になり得るのだと。

勇気を出して小さな質問を一つしてみる。あるいは、チームのメンバーが質問しやすいように「何か質問ありますか?」「ここは少し難しいかもしれませんね」と声をかけてみる。そんな小さな行動の積み重ねが、チーム全体の心理的安全性を育み、「分からない」を安心して共有できる環境を作っていくのだと信じています。

あなたもきっと、置いてけぼり感から解放され、チームの一員として輝ける場所を見つけられるはずです。