心理的安全性ストーリー

「ごめん、失敗した」と言えたら、世界が変わった話 ~失敗を隠さないチームが育んだ挑戦心~

Tags: 心理的安全性, 失敗, 挑戦, チームワーク, 体験談

失敗が怖くて、身動きが取れなかった日々

新しいアイデアを思いついても、「もし失敗したらどうしよう」と考えてしまい、結局誰にも話せずじまい。任された仕事でも、少しでも分からないことやつまずくことがあると、「このまま進めて失敗したらどうしよう」という不安が頭をよぎり、誰かに相談するよりも一人で抱え込んでしまう。

以前の私は、そんな働き方をしていました。

失敗は怒られるもの。評価が下がるもの。そう信じて疑いませんでした。だから、小さなミスをしてしまっても、誰にも気づかれないうちに自分で修正しようと必死でした。もし隠しきれなかったら...と想像するだけで胃が痛くなるような感覚でした。

そんな毎日を過ごしていると、当然ながら新しいことに挑戦する意欲は湧きません。現状維持が一番安全だと感じ、言われたことだけを正確にこなすことだけを考えていました。チームの目標達成のためにもっと貢献したい、もっと成長したいという気持ちはありましたが、「失敗」という見えない壁に阻まれているような、漠然とした息苦しさを感じていたのです。

避けられなかった、あの日の「ごめん、失敗した」

そんな私が、転機を迎えたのは、あるプロジェクトで避けられない失敗をしてしまった時です。

新しいツール導入の担当になり、準備を進めていました。仕様の確認が甘く、テスト環境では問題なかった設定が、本番環境に適用した途端、システムの一部を停止させてしまったのです。すぐに気づきましたが、一人ではどうすることもできません。

頭が真っ白になり、心臓がバクバクしました。過去の経験から、「またやってしまった」「なんて無能なんだ」と自分を責め立て、報告することを躊躇しました。何とか自分で回復させようと焦りましたが、状況は悪化する一方です。

数分間、一人でパニックになった後、「もう隠しきれない。そして、隠せばもっと大きな問題になる」という現実を突きつけられました。勇気を振り絞り、チームのチャットに震える指で入力しました。

「皆さん、申し訳ありません。ツール導入作業で、本番環境の一部を停止させてしまいました。私の確認不足です。現在復旧に向けて対応中ですが、ご協力いただけますでしょうか。」

送信ボタンを押すまでが、本当に長く感じられました。きっと怒られる。そう覚悟しました。

誰も責めなかった、あの驚きと安堵

チャットを送信して数秒後、最初に反応があったのは、別の業務で忙しくしているはずの先輩でした。

「状況詳細ありがとう。慌てなくて大丈夫。まずは何が起きてるか教えてもらえるかな。みんなで対応しよう。」

次にリーダーから連絡が入りました。

「報告ありがとう。すぐに対応チーム作ります。原因究明と復旧を最優先で。〇〇さん(私の名前)、一人で抱え込まないで。情報共有をお願いします。」

驚いたのは、誰一人として私を責める言葉を発しなかったことです。「なぜ確認しなかったんだ」「前に言っただろう」といった非難は一切なく、全員が状況把握と問題解決に向けて即座に動き出したのです。

情報共有のために状況を説明している間も、彼らは真剣に耳を傾け、質問をし、復旧のためのアイデアを出し合いました。私の失敗が原因であることは明らかでしたが、彼らは「失敗した個人」を責めるのではなく、「発生した問題」に対してチーム全体で立ち向かう姿勢を見せてくれたのです。

無事システムが復旧した後、リーダーはこう言いました。

「〇〇さん、報告してくれて本当に助かりました。隠そうとして時間が経つと、もっと大変なことになっていたかもしれません。今回の件は、設定の注意点を学ぶ良い機会になりましたね。これを機にチェックリストを見直しましょう。」

その言葉を聞いて、私は安堵と同時に、今まで感じたことのない温かい気持ちになりました。失敗を咎められないどころか、迅速な報告を評価され、さらにその失敗をチーム全体の学びに変えようとしてくれたのです。

失敗を共有できることが、挑戦を生む

この出来事を通して、私は「失敗を隠さなくていい場所」があることを知りました。そして、失敗を正直に報告し、共有することが、いかに問題の早期解決に繋がり、チーム全体の成長の糧となるかを肌で感じたのです。

私の失敗に対する考え方は、ガラリと変わりました。失敗は恐れるべきものではなく、学びの機会であり、チームとの信頼を深めるきっかけにすらなる可能性があると知ったからです。

それからの私は、以前よりも積極的に新しいタスクに手を挙げたり、会議でアイデアを発言したりするようになりました。もちろん、全てがうまくいくわけではありません。時には小さな失敗もします。しかし、もうそれを過度に恐れることはありません。「もし失敗しても、このチームなら受け止めてくれる」「皆と一緒に解決策を見つけられる」という安心感があるからです。

私が「ごめん、失敗した」と正直に言えたことで、私自身の働き方が変わっただけでなく、チーム内のコミュニケーションも少しずつ変わっていったように感じます。皆がオープンに話すようになり、困難な課題にも前向きに取り組める雰囲気になりました。

あなたの「ごめん、失敗した」が、扉を開けるかもしれない

もし今、あなたが以前の私のように、職場で失敗を恐れて身動きが取れなくなっているとしたら。自由に意見を言ったり、新しい挑戦をすることに息苦しさを感じているとしたら。

それは、あなたが能力不足だからでも、勇気がないからでもありません。もしかしたら、安心して失敗できる環境、つまり「心理的安全性」が少し足りていないだけなのかもしれません。

私の体験は、一つの小さな失敗の報告から始まりました。それは、決して大きな勇気が必要なものではなかったかもしれません。ただ正直に、起きてしまった事実を伝えること。それだけでした。

しかし、その一言が、私自身の内面を変え、チームとの関係性を変え、そして挑戦を恐れない新しい働き方へと繋がる扉を開けてくれたのです。

もちろん、全ての職場で同じような反応が得られるとは限りません。ですが、あなたの「ごめん、失敗した」という正直な一言や、チームメンバーの失敗に寄り添う小さな行動が、少しずつでも職場環境を良い方向へ変えていくきっかけになる可能性は十分にあります。

完璧を目指す必要はありません。まずは、安心して話せる相手に小さな本音を伝えてみる、あるいは、困っている様子の同僚に「何か手伝おうか?」と声をかけてみる。そんな小さな一歩から始めてみませんか。

あなたの、そしてあなたのチームの「世界」が、きっと少しずつ変わっていくと信じています。