「どう思う?」の一言が壁をなくした話 ~私のチームで起きた小さな変化~
いつしか、会議は一方通行になっていた
私たちのチームの会議は、いつも静かでした。議題に対して担当者が報告し、上司がいくつか質問や指示を出す。他のメンバーは、ただ聞いているだけ。何か意見や疑問があっても、「後で個別に聞こう」「ここで言っても仕方ないか」と、つい口をつぐんでしまう。それは、否定されるのが怖いとか、的外れなことを言って恥をかくのが嫌だとか、そういう明確な理由だけではなかったように思います。
なんとなく、意見を求められていない空気。無難にやり過ごすのが一番楽な空気。そんな見えない壁がチームの中にあり、私たちは皆、その壁の内側で息苦しさを感じていたのかもしれません。新しいアイデアも生まれず、問題提起もされにくい。決められたことを淡々とこなす日々が続きました。
「これ、どう思う?」その一言が、小さな波紋を呼んだ
そんなある日、チームのリーダーであるAさんが、いつものように淡々と進められていた会議の最後に、少し間を置いてこう言いました。
「今日の〇〇の件について、みんなはどう思う?報告は以上なんだけど、個人的な意見でもいいし、ちょっとした疑問でもいいから、率直に聞かせてもらえないかな」
いつもの「何か質問はありますか?」とは、少し響きが違いました。個人的な意見、ちょっとした疑問。それは、正しい答えや完璧な質問ではなくても良い、と言われているように感じたのです。
最初に口を開いたのは、普段あまり発言しない若手のメンバーでした。彼は、会議内容のほんの一部分について、「正直、〇〇のデータが腑に落ちなくて。なんでこういう結果になったんですかね?」と、探るように小さな声で質問しました。
Aさんは、その質問に丁寧に答えました。そして、「鋭いね。実はその点、もう少し掘り下げが必要かもしれないと思ってるんだ」と付け加えたのです。否定はもちろんなく、その疑問を価値あるものとして受け止めたのです。
そのやり取りを見て、別のメンバーが「私も、〇〇のプロセスについて、もう少し効率化できるんじゃないかと感じていました」と、これもまた小さな意見を述べました。Aさんはそれに耳を傾け、「なるほど、具体的にどこに可能性があると思う?」とさらに問いを重ねました。
小さな「聞いてもらえた」体験が積み重なる
その日の会議で、劇的に誰もが活発に発言するようになったわけではありません。それでも、「どう思う?」という問いかけから始まり、小さな声が拾い上げられ、否定されずに受け止められる、という小さな変化が生まれたのです。
以降、Aさんは機会を見つけては、メンバー一人ひとりに「〇〇さん、これについてどう思う?」「このやり方、〇〇さんの視点から見てどう?」と、名指しで、あるいは全体に、問いかけるようになりました。問いかけられる側も、最初は戸惑いながらも、小さな意見や感想から口にするようになりました。
「それは面白い視点だね」「そういう考え方もあるのか、気づかなかったよ」「正直に言ってくれてありがとう」
リーダーからのこうした反応が、「何を言っても大丈夫なんだ」という安心感につながっていきました。正しいことを言わなくてもいい、完璧な準備がなくてもいい。まずは感じたこと、考えたことを言葉にしてみよう。そんな空気が、チーム内にゆっくりと、しかし確実に浸透していきました。
壁が溶け、新しい流れが生まれた
「どう思う?」という問いかけから始まった小さな変化は、会議の場だけにとどまりませんでした。日常的なコミュニケーションでも、気軽に「これどう思う?」と意見を聞き合うようになり、ちょっとした疑問や懸念もその場で共有できるようになりました。
心理的安全性が高まるにつれて、私たちのチームにはいくつかの良い変化が起きました。
- 問題の早期発見: これまで「言っても無駄」と諦めていた小さな問題や非効率なプロセスについて、遠慮なく意見が出るようになり、早期に改善できるようになりました。
- アイデアの創出: 誰もが気軽に発言できるようになった結果、これまでとは違う視点や、思わぬ新しいアイデアが生まれるようになりました。
- 連携強化: 互いの意見や考えを共有することで、メンバー間の理解が深まり、よりスムーズな連携が取れるようになりました。
- 心理的な負担軽減: 一人で抱え込まずに済むようになり、「助けてほしい」と言いやすくなったことで、個々の心理的な負担も軽減されました。
小さな問いかけが未来を拓く
私たちのチームを変えたのは、大掛かりな組織改革ではありませんでした。「どう思う?」という、シンプルで、誰にでもできる小さな問いかけでした。そして、その問いかけに対して、どんな小さな意見でも受け止め、価値を見出そうとする姿勢でした。
もし今、あなたの職場で見えない壁を感じているなら、そして「どうせ言っても変わらない」と諦めそうになっているなら、思い出してみてください。劇的な変化だけがすべてではありません。
「これ、どう思う?」
あなた自身が誰かに問いかけてみることもできます。あるいは、誰かの小さな意見や疑問に、「そうなんだ、それはどうして?」と少し立ち止まって耳を傾けてみることもできます。
心理的安全性は、リーダーだけが作るものではありません。チームで働く一人ひとりの、こうした小さな意識と行動の積み重ねによって育まれていくものです。
あなたの感じる息苦しさが、少しでも和らぐように。そして、「どう思う?」という小さな一言が、あなたのチームにも新しい風を吹き込むきっかけになることを願っています。