心理的安全性ストーリー

評価ばかり気にしていた私が、安心して本音を話せるようになった話

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「どう思われるか」が怖かった日々

職場で発言する時、頭の中でまず考えるのは「これを言ったらどう思われるだろうか」ということでした。特に上司や先輩の前では、言葉を選ぶのに精一杯で、結局当たり障りのないことしか言えませんでした。失敗を恐れるのはもちろんですが、それ以上に「評価」というものが常に頭の中にありました。

新しいプロジェクトの方針について、自分なりに考えや懸念点を持っていても、経験豊富なチームメンバーの意見を聞くと、「やっぱり自分の考えは浅いのではないか」「こんなことを言ったら『何も分かっていない』と思われてしまうのではないか」と尻込みしてしまうのです。会議中は、発言するタイミングを逃すまいと身構えながらも、いざとなると口が開きません。時間が過ぎるほど発言しにくくなり、結局何も言えずじまい。質問があっても、「こんな簡単なことも知らないのか」と評価が下がるのではないかという不安が勝り、分からないまま先に進むことも少なくありませんでした。

意見を言えない自分、質問もできない自分に、だんだんと息苦しさを感じるようになりました。本当に自分がやりたい仕事はこれだったのだろうか、自分の存在意義はあるのだろうか、と漠然とした不安が常に胸の中にありました。評価を気にしすぎるあまり、自分の本音や情熱を抑え込んでしまう。そんな状態が続いていました。

小さな変化の始まり

そんな私が、少しずつ変わり始めたきっかけは、本当に些細なことでした。ある日のチームミーティングで、新しいツールの導入について話し合っていた時のことです。私はそのツールを使った経験があったのですが、積極的に発言するタイプではなかったので、他のメンバーの意見を聞いていました。

議論が進む中で、あるメンバーがそのツールの特定の機能について懸念を示しました。その懸念点に対して、私は以前自分が試した時には別の方法で対応できたことを思い出しました。「これは言っても大丈夫かもしれない。批判ではなく、単なる情報提供だから。」そう思って、勇気を出して手を挙げました。

「すみません、その点については、以前使った時に別の設定で回避できた記憶があります。もし必要であれば、後で確認して情報共有できます。」

たったそれだけの発言でしたが、言い終わった後、心臓がドキドキしていました。すると、リーダーが「あ、そうなんだ!それは助かるな、ぜひ後で教えてくれると嬉しいです」と笑顔で言ってくれたのです。他のメンバーからも「へえ、そうなんですね」といった反応がありました。

否定されることもなく、むしろ感謝されたのです。当たり前のことかもしれませんが、当時の私にはそれが大きな出来事でした。「言ってみても大丈夫だった」という小さな成功体験が、評価への過剰な恐れを少しだけ和らげてくれました。

一歩ずつ、本音に近づく

その日以来、私は少しずつミーティングで発言する機会を増やしていきました。最初は「〇〇さんの意見に賛成です。加えて〜」といった、既に誰かが言った意見に便乗する形から始めました。それでも、発言できたという事実が自信につながりました。

次に、簡単な質問をしてみるようになりました。「すみません、この部分がよく理解できていないのですが、もう少し詳しく教えていただけますか?」といった、素直に分からないことを伝える質問です。ここでも、チームメンバーは丁寧に答えてくれ、恥をかくような経験はありませんでした。

そうして少しずつ「言っても大丈夫」という安心感が積み重なっていく中で、自分の意見やアイデアも言葉にできるようになってきました。もちろん、全ての提案が採用されるわけではありません。時には別の意見の方が良いと判断されることもあります。しかし、以前のように「どう思われるか怖い」という気持ちに囚われることは減り、「自分の考えを伝えることができた」という達成感を感じられるようになりました。

驚いたのは、発言するようになったことで、チーム内の自分の立ち位置が変わってきたように感じることでした。「〇〇さんはどう思う?」と意見を聞かれることも増え、自分の知見や経験がチームに貢献できている実感が持てるようになりました。評価を気にしすぎて本音を抑え込んでいた時には感じられなかった、仕事への前向きな気持ちや、チームの一員としての繋がりを感じられるようになったのです。

評価を気にしすぎない、ということ

評価を全く気にしなくなる、というのは難しいかもしれません。人間誰しも、周りからどう見られているかは気になるものです。しかし、「評価が怖いから言わない」から、「評価は気になるけど、言ってみよう」というマインドに変わることはできるのだと、自身の経験を通して学びました。

この変化は、私一人の力だけではなく、チームの雰囲気にも支えられていました。私の小さな発言を否定せず、耳を傾けてくれたチームメンバーやリーダーがいたからこそ、私は少しずつ勇気を出すことができました。心理的安全性は、特別な誰かが作り出すものではなく、一人ひとりの小さな言動、例えば否定しない、耳を傾ける、感謝を伝えるといった積み重ねによって育まれるのだと感じています。

もしあなたが今、職場で評価を気にしすぎてしまい、言いたいことを我慢していると感じているなら、それはあなただけではありません。多くの人が同じような悩みを抱えていることと思います。そして、そこから抜け出すための大きな一歩は、意外と小さな一歩かもしれません。簡単な質問をする、賛成の意思を伝える、小さな気づきを共有するなど、あなたが「これなら言えるかも」と思えることから始めてみるのはいかがでしょうか。

あなたの小さな一歩が、あなた自身の心を軽くし、もしかしたらチームの空気も少しずつ変えていくかもしれません。安心して本音を話せる場所は、きっとあなた自身の手で、そして周りの人々と一緒に作っていくことができるはずです。応援しています。