空気を読んで黙っていた私が、アイデアを提案したら「チームの空気」が変わった話
職場の「空気」に縛られていた日々
私の職場は、良く言えば落ち着いている、悪く言えば少し「重たい空気」が漂う場所でした。会議では活発な議論は少なく、新しいアイデアを提案する人もほとんどいません。「前に同じようなことやったけど、うまくいかなかったんだよね」「それ、費用対効果が悪そうじゃない?」といった、否定的な反応が先行することが多かったからです。
私自身も、心の中では「こうしたらもっと効率的になるのに」「お客様はこういう点を改善してほしいと思っているはず」といったアイデアが浮かんでいました。しかし、それを口にする勇気はありませんでした。以前、少しだけ意見を言ってみた時に、先輩から「まあ、気持ちは分かるけどさ」と軽く流された経験があったからです。
周りの人もどこか遠慮しているように見え、いつしか私も「余計なことは言わない方が波風が立たない」と考えるようになりました。会議中はひたすら資料に目を通し、発言を求められない限り黙っている。そんな日々が続いていました。職場にいる間、常に薄い膜がかかっているような、どこか息苦しさを感じていたのです。
小さなアイデアを温め続けた私
そんなある日、担当している業務で小さな非効率に気づきました。毎日繰り返される手作業で、どうしても時間がかかってしまう部分です。少し調べれば、簡単なツールを導入するか、既存のシステムの設定を少し変更するだけで、この作業時間を大幅に短縮できることが分かりました。
これは良い改善提案になるかもしれない。そう思いましたが、同時に「でも、どうせ難色を示されるだろうな」という考えも頭をよぎりました。ツールの導入には多少の費用がかかりますし、システム変更には他の部署との連携も必要かもしれません。また「これまでこのやり方でやってきたんだから、変える必要はない」と言われるのが怖かったのです。
それでも、その非効率な作業に時間を取られるたびに、心の中で「もったいないな」という思いが募っていきました。この改善ができれば、自分自身の負担が減るだけでなく、チーム全体の生産性向上にもつながるはずです。勇気を出して提案してみようか。葛藤が続きました。
一歩踏み出す勇気と、予想外の反応
数日悩んだ末、私は意を決しました。まずは直属の上司に、調べた内容と提案をまとめて話してみることにしたのです。期待半分、諦め半分といった気持ちでした。
資料を見せながら、作業の非効率性、具体的な改善策、そして導入した場合のメリットを説明しました。話し終わると、上司はしばらく黙って資料を見ていました。いつものように「まあ、それは難しいかな」と言われるか、と構えていると、意外な言葉が返ってきたのです。
「なるほど。具体的なデータもちゃんと調べているんですね。確かに、その作業はずっと気になっていたんだよ。でも、みんな忙しいから、誰も改善に手を付けられずにいたんだ。よく気がついてくれた」
予想外にも、私の提案は頭ごなしに否定されることはありませんでした。上司はいくつかの質問をした後、「この提案、一度チーム内で共有して、みんなで話し合ってみようか」と言ってくれたのです。
初めてチーム全員の前で提案するのは、やはり緊張しました。会議で私が改善策について説明すると、最初は皆少し戸惑っている様子でした。しかし、上司が「これは〇〇さん(私の名前)が業務の中で気づいた点です。ぜひ、皆さんの意見を聞かせてください」と促してくれたこともあり、徐々に他のメンバーからも発言が出始めました。
「確かに、あの作業は煩雑だよね」「ツールの導入は良いかもしれないけど、〇〇の場合はどうなるんだろう?」「システム変更のリスクはないのかな?」といった質問や懸念、そして「もし導入できたら、こんな良いことがあるね」といったポジティブな意見も出てきました。
驚いたのは、誰も私の提案そのものを頭ごなしに否定しなかったことです。様々な意見が出ましたが、それは提案をより良くするための建設的な議論でした。自分の提案が、チーム内の話し合いのきっかけになったことが、純粋に嬉しかったです。
小さな一歩がもたらした「チームの空気」の変化
結局、私の提案した改善策は、チーム内で話し合いを重ね、一部修正を加えながらも実行に移されることになりました。そして、実際に作業時間が短縮され、チームの生産性は目に見えて向上しました。
この一件以降、チームの「空気」が少しずつ変わり始めたように感じています。以前よりも会議での発言が増えました。誰かがアイデアを言うと、すぐに否定するのではなく、「それいいね!」「もしこうだったらもっと良くなるかも?」といった、一旦受け止めてから発展させようとする姿勢が見られるようになったのです。
また、私自身も以前のように「空気を読んで黙っている」ことは減りました。気づいたこと、思ったことを臆さずに伝えられるようになりました。もちろん、全ての提案が採用されるわけではありませんし、時には課題を指摘されることもあります。でも、それは個人的な否定ではなく、より良い仕事のためのフィードバックだと捉えられるようになりました。
これはまさに「心理的安全性」が高まったということなのだと思います。自分の意見やアイデアを安心して発言できる。たとえ完璧でなくても、否定されずに受け止めてもらえる。そう感じられるようになったからこそ、皆が積極的に関わるようになり、チーム全体に活気が生まれてきたのです。
あなたの一歩が、空気sを変えるかもしれない
私の体験は、大掛かりな改革があったわけではありません。一人のメンバーが、心の中で温めていた小さなアイデアを、勇気を出して伝えてみた。ただそれだけのことです。
しかし、その小さな一歩が、私自身の働きがいを変え、そしてチームのコミュニケーションや雰囲気を良い方向へ変えるきっかけとなりました。
もしあなたが今、職場の「空気」に息苦しさを感じていて、「どうせ言っても無駄だ」「波風を立てたくない」と、言いたいことや提案したいことを我慢しているとしたら、私の体験が少しでも希望になれば嬉しいです。
完璧な環境になるのを待つ必要はありません。まずは、信頼できる誰か一人に話してみる、小さな改善点について意見を共有してみるなど、あなたにできる小さな一歩から踏み出してみてはいかがでしょうか。あなたの一歩が、チームの「空気」を変える、その始まりになるかもしれません。