心理的安全性ストーリー

前例主義だったチームに心理的安全性が芽生え、挑戦を楽しむようになった話

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前例を踏襲する安心感と、その裏側にある息苦しさ

私たちのチームは、良く言えば「堅実」、悪く言えば「前例主義」でした。新しいアイデアや、少しでもやり方を変えようという提案が出ても、「前例がないから難しいね」「今はこれで問題ないでしょう」という言葉で却下されることがほとんどでした。

変化を避けることには、ある種の安心感があったのかもしれません。慣れたやり方で進めれば、大きな失敗はない。それがチームの共通認識のように感じられました。しかし、その一方で、私は漠然とした息苦しさを感じていました。新しい技術や手法を学ぶ機会もなく、ただ決められたレールの上を進んでいるような感覚。いつかこのやり方が通用しなくなるのではないか、という不安もありました。

チームメンバーも、心の中では何か新しいことに挑戦したいと思っているのかもしれない。でも、誰かが変化を提案して却下されるのを見ていると、「言っても無駄だ」「波風を立てたくない」という気持ちになり、だんだん発言しなくなっていく。私自身も、いつしか積極的な提案を控えるようになっていました。チームの雰囲気は、穏やかではあるけれど、どこか停滞しているように感じられました。

小さな「わからない」が、チームに風穴を開けた

そんな私たちのチームに、少しずつ変化が訪れるきっかけがありました。それは、新しくチームに加わった若手メンバーが、遠慮なく「これってどういう意味ですか?」「なぜこの手順なんですか?」と質問するようになったことです。

最初は、私たちベテランメンバーは少し戸惑いました。「いちいち聞かなくても調べれば分かるだろう」といった空気もありました。でも、その新メンバーは質問することを恐れませんでした。そして、彼女の質問によって、私たち自身も「なぜこの手順なんだっけ?」「もっと良い方法があるんじゃないか?」と立ち止まって考えるようになったのです。

ある時、彼女が担当していた業務で、前例のない小さなトラブルが発生しました。過去の経験則が通用しない状況です。彼女は正直に「すみません、どうすればいいか分かりません」と助けを求めました。これまでのチームなら、「なぜ確認しなかったんだ」「もっと慎重に進めるべきだった」といった声が出てもおかしくありませんでした。しかし、その時は違いました。リーダーが「大丈夫。原因を一緒に探そう」「こういう時こそ、チームで乗り越えよう」と声をかけたのです。他のメンバーも自分の知見を共有したり、代替案を出し合ったりしました。結果的にトラブルは無事解決し、私たちはその経験から新しい対応策を学ぶことができました。

この出来事を境に、チームの空気が少し変わったように感じました。「分からない」と言っても非難されない。「失敗」を報告しても、責められるより先に解決策を一緒に探してくれる。そんな安心感が、チームの中に芽生え始めたのです。

「まずはやってみよう」がチームの合言葉に

心理的安全性が少しずつ育まれる中で、私も小さな変化を始めました。ずっと温めていた、業務効率化のための小さなツールの導入を提案してみたのです。これまでは「前例がない」の一言で終わっていましたが、今回はリーダーが「面白そうだね。まずは一部の業務で試してみようか」と言ってくれたのです。

初めての試みだったので、もちろん全てが順調に進んだわけではありません。ツールの使い方が分からず戸惑ったり、想定外の課題にぶつかったりしました。でも、もう「失敗したらどうしよう」という強い恐れはありませんでした。「すみません、ここがうまくいきません」と素直に言えましたし、チームメンバーも「それならこうしてみたら?」「〇〇さんに聞いてみようか」と助けてくれました。

試行錯誤を重ねるうちに、ツールは少しずつ効果を発揮し始めました。そして、その成功体験は、チームにさらにポジティブな変化をもたらしました。「あのツール、便利だね!」「他の業務にも応用できないかな?」といった声が自然と上がり始め、別のメンバーからも新しい提案が出るようになりました。

「前例がないからやらない」ではなく、「まずはやってみよう、うまくいかなければ改善すればいい」というマインドが、チームの中に根付き始めたのです。

心理的安全性が生んだ、挑戦する楽しさ

私たちのチームは、今では新しいアイデアを歓迎し、変化を恐れずに挑戦するチームに変わりました。もちろん、全ての挑戦が成功するわけではありません。失敗することもあります。でも、失敗してもそれを隠そうとしたり、誰かを責めたりすることはありません。なぜうまくいかなかったのかをチームで共有し、次に活かすための学びとして捉えています。

心理的安全性が生まれたことで、メンバー一人ひとりが安心して発言できるようになりました。それは、業務に関するアイデアだけでなく、困っていることや、心の中で感じているモヤモヤも含みます。お互いを信頼し、尊重し合える関係性が築けたからこそ、私たちは変化を乗り越え、新しい挑戦を楽しむことができるようになったのだと感じています。

もし今、あなたのチームが前例主義にとらわれていたり、変化に対して消極的だったりして、息苦しさを感じているとしたら。それはもしかすると、心理的安全性が少し不足しているのかもしれません。

大きな変化を起こすのは難しいと感じるかもしれません。でも、あの新メンバーの「分からない」という素直な一言や、リーダーの「大丈夫」という声かけのように、小さな一歩から空気は変わっていきます。あなたが小さな質問をしてみること、失敗を正直に報告してみること、誰かの挑戦を応援してみること。そうした一つ一つの行動が、チームに心理的安全性を芽生えさせ、停滞していた空気を動かす風になるかもしれません。

挑戦することの楽しさ、そこから生まれる成長を、あなたもきっと感じられるはずです。