心理的安全性ストーリー

提案しても無駄だと思っていた私に、新しいアイデアを歓迎してくれる職場ができた話

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「どうせ言っても無駄だろうな」と感じていた頃

皆さんの職場には、新しいアイデアや改善の提案がしやすい雰囲気があるでしょうか。それとも、「どうせ言っても変わらない」「面倒なだけだ」といった諦めや抵抗感が漂っているでしょうか。

私は以前、まさに後者のような職場で働いていました。新しい技術の導入や業務フローの改善など、もっと効率化できる点や、顧客満足度を高められる方法があると感じていても、それを口にするのが億劫でした。というのも、過去に何度か提案らしきものをしてみても、「前例がない」「今はその時期ではない」「面倒が増えるだけ」といった反応で、まともに取り合ってもらえなかった経験があったからです。

同僚たちも似たような空気を感じていたようで、「どうせ無理だよ」「言っても変わらないから」と、次第に皆が現状維持を好むようになっていきました。会議は報告中心で、活発な意見交換はほとんどありません。新しい挑戦をしようという雰囲気もなく、ただ日々与えられた業務をこなすだけで精一杯、という状態でした。

正直、漠然とした息苦しさを感じていました。このままでいいのだろうか、もっとできることがあるはずなのに、と。心のどこかでは、「いつかこの閉塞感を打ち破りたい」と思っていました。

小さな一歩を踏み出してみた

そんなある日、どうしても効率化したいと感じるルーチンワークがありました。毎日30分かかっている作業を、少しの工夫で10分に短縮できるのではないか、と考えたのです。大がかりなシステム変更ではなく、ほんの些細な改善提案でした。

「どうせ無理」という思いが頭をよぎりましたが、ダメ元で直属の上司に相談してみることにしました。これまでの経験から、頭ごなしに否定されることも覚悟していました。

ところが、意外なことに上司は私の話を遮らず、最後までしっかりと耳を傾けてくれたのです。「なるほど、そういうやり方もあるのか」「試してみる価値はあるかもしれないな」と、前向きな言葉をくれました。そして、「まずは君自身で少し試してみて、効果がありそうなら皆にも共有してみようか」と提案してくれたのです。

大きな期待はしていませんでしたが、否定されなかったこと、そして試すことを許可されたことが、私にとっては大きな驚きでした。

変化は「否定されない安心感」から始まった

上司の許可を得て、私は早速その小さな改善策を試してみました。結果は想定通り、作業時間は大幅に短縮できました。その効果をまとめて上司に報告すると、今度は「素晴らしいじゃないか!ぜひチーム全体で取り入れよう」と言ってくれたのです。

チームの会議でその改善策を共有したときも、誰も否定的な意見を言いませんでした。「それはいいね」「早く知りたかった」といった肯定的な反応が多く、スムーズにチーム全体に展開することができました。

この経験を通して、私は「自分の提案が受け入れられる」「否定されない」という安心感を得ました。これは以前の職場にはなかった感覚です。この小さな成功体験がきっかけとなり、私は他の業務についても「もっとこうすれば良くなるのでは?」と考えるようになりました。そして、以前ほど「どうせ無理」と思わずに、改善点や新しいアイデアを口にできるようになっていきました。

最初は私一人の小さな動きでしたが、私が提案し、それが受け入れられ、実際に良い変化が生まれたのを見て、他のメンバーも少しずつ発言するようになってきたのです。会議では、以前はなかった「〜について、こう考えているのですが、皆さんどう思いますか?」といった問いかけや、「それ、面白そうだね!もう少し詳しく聞かせてくれる?」といった前向きなやりとりが増えてきました。

新しいツールの試験導入を提案する人、業務フローの根本的な見直しを議論しようと持ちかける人。かつての「現状維持が当たり前」だった空気が変わり始め、チーム全体に「もっと良くしていこう」「新しいことにも挑戦してみよう」という、活気と前向きなエネルギーが生まれてきたのを肌で感じました。

「否定されない」が育む心理的安全性

この変化を振り返って思うのは、心理的安全性の重要性です。「何を言っても否定されない」「たとえ小さな提案でも耳を傾けてもらえる」という安心感があるからこそ、人は自分の意見を述べたり、新しい挑戦を恐れずにできるようになるのだということです。

以前の職場では、提案が否定されることで「言っても無駄だ」という無力感や、「変なことを言って評価を下げたくない」という恐れが蔓延していました。これが心理的安全性が低い状態です。しかし、上司が私の小さな提案を否定せず、むしろ後押ししてくれたことで、私は「ここでは何を言っても大丈夫かもしれない」と感じられるようになりました。

私一人の小さな一歩と、それを受け止めてくれた上司の姿勢が、チーム全体の空気を変えるきっかけになったのです。特別なリーダーシップやカリスマが必要だったわけではありません。ただ、「否定しない」「まずは受け止めてみる」という、相手の意見を尊重する姿勢があっただけです。

あなたの小さな一歩が、未来を変えるかもしれない

もしあなたが今、「どうせ言っても無駄だ」とか「この閉塞感をどうにかしたいけれど、何をすればいいか分からない」と感じているなら、かつての私と同じような状況かもしれません。

しかし、諦める必要はありません。大きな変化を起こそうと気負うのではなく、まずはあなたの周りの小さなことから変えてみませんか。日々の業務のほんの小さな改善点に気づき、信頼できる誰かにそっと話してみる。あるいは、チームメイトのアイデアに「いいね」と肯定的な反応を示す。

もしかしたら、最初は何も変わらないかもしれません。でも、あなたの小さな一歩が、誰かの「言ってみようかな」という勇気に繋がり、それがまた別の誰かの行動を促すかもしれません。

心理的安全性は、誰か特定のリーダーだけが作るものではなく、私たち一人ひとりの日々の関わりの中で育まれていくものです。「否定しない」「耳を傾ける」「まずは受け止めてみる」。そんな意識を少し持ってみるだけで、あなたの周りの世界はきっと変わっていくはずです。

「提案しても無駄だ」と思っていた場所が、「あなたの新しいアイデアを歓迎します」と言ってくれる場所に変わる。そんな希望を、この記事を通して少しでも感じていただけたら嬉しく思います。