正解ばかり求めていた私が、失敗を恐れずに「まずやってみよう」と言えるようになった話
「失敗しないこと」が一番の目標でした
入社して数年、私の仕事のやり方はいつも同じでした。「いかに失敗しないか」「どうすれば完璧な成果を出せるか」。上司からの指示や過去の成功事例を徹底的に調べ上げ、少しでも分からないことがあると不安になり、動けなくなってしまうのです。
「正解はなんだろう?」
いつもその問いが頭の中をぐるぐる回っていました。もし間違ったことをしたら? 期待外れの結果になったら? そう考えると、新しいアイデアを試したり、少しでもリスクのあるやり方に挑戦したりするなんて、とてもできませんでした。結果として、言われたことだけをこなし、無難な成果に終始する毎日。
チームメンバーと話す時も、自分の意見に自信が持てず、「みんなはどう考えているんだろう」「変なことを言ったらどうしよう」と気になって、結局あたりさわりのない相槌しか打てませんでした。会議でも、他の人が活発に意見を交わしているのを横目に、ただ黙って聞いているだけ。そんな自分が嫌でしたが、どうすれば変われるのか分かりませんでした。職場にいるのが、どこか息苦しかったのです。
「まず、やってみようか」上司のその一言
そんな私が変わるきっかけになったのは、新しいプロジェクトが始まったことでした。これまでの経験だけでは対応できない、未知の領域が多いテーマだったのです。当然、過去の「正解」は通用しません。
私はまたしても「どうすればいいんだ...」と立ちすくんでしまいました。何から手をつければいいのか、どんな方法が適切なのか、全く見当がつかない。失敗する可能性が恐くて、一歩も踏み出せないのです。
そんな時、上司のAさんが私たちチームにこう言いました。「このプロジェクトは、誰もやったことがないことばかりだから、最初から完璧を目指すのは難しいと思う。大事なのは、まず小さく試してみて、そこから学んでいくことじゃないかな。失敗しても大丈夫。それは次の成功のためのヒントになるから。まず、面白そうなところから、やってみようか」
「失敗しても大丈夫」
その言葉を聞いた瞬間、張り詰めていた肩の力がふっと抜けるのを感じました。「完璧じゃなくていいんだ」「失敗は怖いことじゃないんだ」と、頭では分かっていたつもりでしたが、上司から直接、それも新しい挑戦を始めるこのタイミングで言われたことが、私の心にストンと落ちてきました。
Aさんは、言葉だけでなく態度でも示してくれました。私たちが新しい方法を試してうまくいかなかった時も、決して責めたりせず、「ここはなぜこうなったんだろう? 次はどうしたら良くなると思う?」と一緒に考えてくれたのです。他のチームメンバーも、自分の試行錯誤の過程や、うまくいかなかった経験を気軽に話してくれるようになりました。「それ、私もやってみたけどうまくいかなかったんだよね。でも、こういうやり方ならいけるかも?」と、失敗談が次に繋がるヒントになったり、アイデアが生まれたりする様子を目の当たりにしました。
「正解」よりも「学び」を求めるチームへ
少しずつ、「正解を探す」ことから「まずはやってみる」ことに意識が変わっていきました。完璧な資料を作る前に、まずは簡単なプロトタイプを作ってチーム内で共有してみる。頭の中で考えているだけでなく、一度言葉にしてメンバーに伝えてみる。小さな一歩ですが、踏み出すたびに何かしらの反応や学びが得られました。
最初はもちろん、うまくいかないこともたくさんありました。予想外の課題が見つかったり、思っていたのと違う結果になったり。でも、以前のように落ち込んでフリーズすることはなくなりました。「これはうまくいかなかったけど、なぜだろう?」「ここを改善したらどうなるだろう?」と、失敗から学びを得て、次の行動に繋げることができるようになったのです。
チームの雰囲気も変わってきました。一人で正解を抱え込もうとするのではなく、「これどう思う?」「こんなことを試してみたんだけど」「これって分からないんだよね」と、お互いに投げかけ合うことが自然になったのです。それは、誰もが「失敗しても大丈夫」「分からないことを聞いても恥ずかしくない」と感じられる、心理的に安全な環境がそこにあったからだと思います。
「まずやってみよう」の精神は、私自身だけでなく、チーム全体の主体性を高めました。上からの指示を待つだけでなく、自分たちで考え、提案し、実行する。その過程で失敗があっても、互いをサポートし合い、学び合いながら前へ進めるようになりました。
小さな「やってみよう」が未来を拓く
正解を求めるあまり、挑戦から逃げていた過去の私に、もし今の私から言葉をかけるとしたら、こう言うでしょう。「大丈夫だよ。完璧じゃなくていいんだ。失敗は怖いものじゃない。それは、あなたが成長するための大切なステップだから。」
心理的安全性は、私にとって「失敗しても良いんだ」という安心感、そして「まずやってみよう」と一歩踏み出す勇気をくれました。それは、仕事における主体性を取り戻し、自分自身の可能性を広げることにも繋がっています。
もし今、あなたが職場で「失敗できない」「正解が分からないと動けない」と感じて息苦しさを感じているなら、もしかしたらそれは、心理的安全性が少し足りない環境にいるのかもしれません。でも、諦めないでください。大きな変化でなくても大丈夫です。まずは、あなたが「これ、どうなるんだろう?」と少しでも興味を持ったことに、小さな「まずやってみよう」の一歩を踏み出してみることから始めてみるのはどうでしょうか。
そして、もし可能であれば、チームの中で「これもしかして失敗するかもなんですけど、やってみてもいいですか?」と問いかけてみるのも良いかもしれません。あなたのその小さな一歩が、あなた自身の、そしてチームの「やってみよう」の文化を育む、大きなきっかけになることもあります。心理的安全性は、そんな小さな「やってみよう」が集まって、少しずつ育まれていくものだと、私は体験を通して学びました。